【天皇賞】武豊を凌ぐ天才ジョッキー現わる！ケンタッキーダービーデーのG1を制覇した木村和士騎手(25歳)とは？

風を切るように走る馬。その背で、幼い日の木村和士は、兄・拓己の姿を追い続けていた。地方競馬で活躍していた兄が、国体の舞台で誇らしく馬を操る姿は、少年の心に鮮烈な光を残した。

「俺も、ああなりたい」

和士は、自然と馬と心を重ねていった。騎手になる――その夢は、いつしか運命のように彼を導いた。

やがて、JRA競馬学校へと進んだ和士。小柄な身体に天賦のバランス感覚、しなやかな騎乗フォーム。教官も一目置く才能があった。しかし、その光はすべてを照らすには足りなかった。勝負の世界には、技術だけでなく、運、精神力、人間関係――さまざまな壁が立ちはだかる。

重圧と葛藤。日本競馬の厳しい序列と閉塞感。和士は騎手課程を途中で退学することを決断した。

夢の終わりかに見えた――だが彼は、夢を諦めてはいなかった。

18歳、単身で海を越えた。目指した先は、北米カナダ。日本のような支援も後ろ盾もない、まさにゼロからの出発。馬房掃除、雑用、通訳もいない厩舎暮らし。その中で、彼は「馬と向き合う力」をより深く体得していった。

努力の末、騎手免許を取得。初騎乗、初勝利――やがて、その勝利は重賞へ、そしてG1へと繋がっていく。

2021年、2022年にはカナダ・ウッドバイン競馬場で2年連続リーディングジョッキーに。2023年にはドバイ、そしてついにアメリカ・G1の舞台にも名を刻む。

そして、2025年。ケンタッキーダービーデーのG1、チャーチルダウンズの空に、和士がウィナーズサークルで両手を突き上げる姿があった。あの少年が、世界の風を超えていた。

だが、日本では――彼の鞍音は、まだ響いていない。

「今のJRAには、閉じられたものを感じる」

そう語ったことがあるという。実力より序列、才能より人脈。日本の競馬学校で感じた苦さは、いまだ癒えぬ傷跡として残っているのかもしれない。

それでも、ファンは願う。

いつの日か、世界を制したその腕で、東京競馬場の直線を駆け抜ける和士の姿を――。

風を超えてきた男が、再び「原点の地」に舞い降りるその日を、静かに待ち続けている。